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Interview Vol.01

出合小都美(アニメ監督、演出家)

「平和請負人代行」を務めることになった4人の女の子たちが「月明かりの石」を探すため、よそ者の「モブ」とののしられつつも、がんばり、ふんばって、今日もバイクで旅をする……。2015年に放送したアニメ『ローリング☆ガールズ』は、その不思議な魅力をたずさえて、いまなお多くのファンから愛されている作品です。人々の心に深く残る作品、それはどのようにつくられたのでしょうか。監督を務めた出合小都美さんに当時の制作現場について、そしてご自身のお気に入りの「シーン」についてお話を聞いてみました!

まずは、出合監督が『ローリング☆ガールズ』に携わるまでの、これまでのキャリアについてお聞きしたいです。

そもそもアニメ業界に足を踏み入れたのは、2004年に株式会社マングローブへ入社してからです。当時はCMやPVをつくる仕事に興味があり、映画も好きでした。映像で物語を演出する、そういうことをやってみたいなと思っていたんです。私は『カウボーイビバップ』が流行った頃に青春を過ごしてすごく好きな作品だったので、監督を務められた渡辺信一郎さんが「マングローブで新作をつくる」と聞いて「そうか、アニメという選択肢もあるのか」って。制作として関わってみたいと思って応募したのが最初ですね。マングローブでは制作進行を3年ほど務めて、その後に演出助手を経てから演出をするようになりました。演出は、10年くらいやったのかな。その後、最初に監督のオファーをいただいたのが『ローリング☆ガールズ』だったんです。

この日、実際に『ローリング☆ガールズ』の制作現場でもある制作会社「WIT STUDIO」(本作のアニメーション制作)のデスク、会議室を借りて、出合監督にお話を聞いた。

初監督作品は『銀の匙 Silver Spoon』(第二期)と聞いていたので、すこし驚きました。

そうですね。ほぼ同時期に『銀の匙』の方のお話もいただきました。原作のある『銀の匙』と違い『ローリング☆ガールズ』はオリジナル作品なので企画段階にかなり時間をかけていました。脚本のむとうやすゆきさんが企画を出して、キャラクター原案のtanuさんとともに物語を温め、その後に私や、キャラクター設定や総作画監督の北田勝彦さんが入って、キャラクターが仕上がってきて……。私が参加してからでも、少なくとも1年以上は企画を練る作業をしていましたね。そうやってシナリオを準備している間に『銀の匙』の監督のお話をいただいたんです。当時は、はじめての監督作品をこなして経験値を積みながら、『ローリング☆ガールズ』の仕込みもやっていました。

はじめて『ローリング☆ガールズ』の企画書を見たとき、どんな印象でしたか?

お仕事のオファーは電話でいただくことが多いのですが、その時に口頭で言われたのは「女の子たちがバイクで旅をして、その女の子たちが『モブ』なんです!」と(笑)。

はい(笑)。

そして、「いろんなところへバイクで旅をしていくロードムービーで、その女の子たちがめちゃめちゃ頑張るんです」と。うろ覚えですけど、だいたいそんなことを言われました。私は「なんか面白そうじゃないですか!」って。その時はビジュアルもまだ見てなかったんですけど、今までにあんまりなかった企画だなと思って、直感的に面白そうだなと。

作品の大枠は、はじめの電話で聞いた通りの内容に完成したんですね。作品を通して見ていると、スタッフがすごく楽しそうな作品だなと思いました。現場がすごく楽しんでつくっているんじゃないかなっていうのが画面越しに伝わってきました。実際の制作現場はどうだったんでしょうか?

そう言っていただけるのはすごく嬉しいです! 当時つくっている最中は、どんどん時間もなくなっていくので、現場はてんてこ舞い。けれどこの作品の制作スタッフの空気感は独特で、ただつくるだけでも大変なんだけど、少しでも面白くしたい、楽しんでつくりたい、そういうモチベーションがありましたね。

『ローリング☆ガールズ』は特別な作品だと言う出合監督。「当時、現場をともにしたスタッフと今でも同じ現場となることもよくあります。いま放送している『GREAT PRETENDER』では、スタッフの計らいでこっそり『ロリガ』のキャラっぽいものが出てきたりして(笑)」。

そんなてんやわんやな制作のなかで、今でも覚えているエピソードはありますか?

たくさんあります、つくっている時は毎日がハプニングの連続だったので(笑)。そのなかでも、個人的に印象に残っている話もあります。制作が中盤に差しかかった頃だと思うのですが、ちょうど私のデスクと背中合わせに座っていたアクション作画監督の今井有文さんから「モサ」が出てくる際のエフェクトについて話しかけられたんです。「こんなイメージでやっているんですけど、どうですかね?」と。「うん、いいんじゃないですか」と、そんなやりとりを雑談混じりで話していたんです。そしたら、今井さんの横に座っていた北田さんが、すっごい満面の笑みでこっちを見てるんですよ。それはもう、めちゃくちゃ笑顔で。「どうかしたんですか?」って聞いたら、「いやあ、なんかいいですね。ものづくりをしている感じがしますね〜」って(笑)。

やりとりを見て笑顔になっていたと(笑)。

でも、笑顔になる理由もちょっと分かるんです。制作にはどうしても締め切りがあるので、日々追われていくわけです。いっぱいいっぱいになると、どうしても流れ作業になってしまうこともあるんですが、『ローリング☆ガールズ』の場合はそうじゃなくって、どんなに忙しいときでも意見を交わしながら進んでいました。美術さんも、色彩さんも色々とアイデアを出してくれて、そういった現場のグルーヴ感が最終話まで絶えませんでしたね。正直なところ、そんな現場はなかなかないです。振り返ってみると、不思議な作品だなと思います。これまでさまざまなかたちでアニメーションの制作現場に携わってきた実感から言うと、作品はそれぞれ「運」みたいなものを引き寄せながら完成されていくと思うんです。『ローリング☆ガールズ』の場合、スタッフたちの熱量がそのままフィルムにも乗っかっていく、そういう「運」を引き寄せたんじゃないかなと思います。

実際に私たちもそうですが、画面越しに制作現場からの熱量を感じた方も多いんじゃないかと思います! 最終話まで現場ではいろいろなコミュニケーションがあったと思うのですが、特にスタッフのなかでこだわっていたことはありますか?

こだわったと言えば、シナリオの段階から自然な女性・女の子像が意識されていて、キャラクターの表情をつくるときやコンテのなかでも「素の感情をどう表現するか」はこだわりましたね。共通認識として、主人公たちは女の子だけれどもそこはあまり強調しすぎないように、みんなで注意していました。というのも、10代の子は「女性らしく」ということを、そこまで意識して生きていないと思うんです。女性らしさより、自分がどういう風に行動をしたいかのほうが大事なはず。なので「女の子だから可愛く」みたいな演出はしませんでした。例えば、女の子らしい走り方ってあると思いますが、そういう過剰なことはしない。10代の女子が全力で走るときは、全力のポーズで走ると思うんです。この作品には、そういう媚びたような表現は入れたくないよね、ということをよくみんなで話していましたね。

『ローリング☆ガールズ』には、ほかにもいろいろなこだわりの詰まった作品だとは思いますが、もし強いて選ぶのならば……出合監督の中でお気に入りのシーンはどこでしょうか。

最終話なんですけど、1つに絞りきれず……2つあります。ひとつは、籾山が結季奈に夢の話をするシーン。ここは私が演出をしているんですけど、見せ方にかなりこだわったシーンです。内容的にもいい話ですし、すごく思い入れがありますね。
もうひとつは、千綾が御園ハルカ大統領、お母さんにハッキリと自分の意見を言うシーンです。このシーンは千綾にとって集大成になるシーンで、声優の花守ゆみりさんの芝居はもちろんキャラクターの芝居もすごく良くできました。

出合監督のお気に入りは、このシーン!

最終話の「ワンシーン」。「仁侠ロボ・ダイモン」の暴走を止めるため、千綾は望未、逢衣とともに「名余竹の代紋」を持って「石作ストーンズ」の本部へとバイクを走らせる。道中に母親である御園ハルカ大統領と出くわし、家出をして旅を続けていた千綾は、母親へ自分の意思をはっきりと言葉で伝える。千綾とハルカがはじめて母娘らしい会話を交わす、印象深いシーン。

こちらも最終話からの「ワンシーン」。牢獄に囚われていた結季奈、籾山、音無の3人は、脱獄し本部へ向かう。途中、結季奈は籾山が所属していた伝説のスリーピース・ロックバンド「もみあげハンマーズ」の話や「夢を掴む」ための話を聞くシーン。これまでの4人の旅や関係性を思わせるような、籾山の語りに心を揺さぶられる。

どちらも印象深いシーンでした。実はひとつ目のシーンカットは、今回制作した『ローリング☆ガールズ』と「uno / cine」のコラボ商品のなかにも使わせてもらいました。

今回のコラボレーションでつくられた「"cine" Long Sleeve T : B」は、出合監督のお気に入りのシーンも含め、作品のなかの印象的な12のシーンを選んでレイアウトを施した。

いまこのロンTを見て「よくぞこのシーンを選んでいただきました!」って思いました(笑)。ホワイトもそうですが、ブラックのバックプリントも良いですね。このエンディングシーンの背景は、特に気に入りです。バックプリントで言うと、コーチジャケットもいいですね。オープニングのラストカット、彼女たちの後ろ姿に物語性を感じますよね。どのアイテムもすごく凝っていて、本当に、愛を感じます(笑)。

ありがとうございます! この作品のなかにいろんな要素が含まれているので、どの部分をグッズに落とし込むのか考える作業は、楽しくも大変でした。色々なキーワードが飛び交う作品ですが、以前に出合監督が『ローリング☆ガールズ』を「青春ものです!」と言い切っていたのが印象的でした。

青春ってエネルギーがいちばん溢れている時代だと思うんです。私にとって青春は、エネルギーを持った人たちがぶつかり合って、わちゃわちゃしてるっていうイメージ。それで、この作品を言い表すのに相応しいなと。メインの4人を中心に「モサ」たちやほかの「モブ」たち、個性の強いキャラクターのエネルギーがぶつかり合って、お互いに影響されたり、ときには成長もする。そういう青臭さも含めて、青春ものだと思いますね。

特に気に入ってくださった「“cine” Coach Jacket」をバックプリントを見ながら、「すごくかっこいいです。ただ、シーンカットの下のコピーライト表記が邪魔になっていないかが心配です(笑)」

『ローリング☆ガールズ』は2015年に放送を終えたにも関わらず、5年経った今でもなお多くのファンのみなさんに愛されています。

私にとっても、『ローリング☆ガールズ』は思い出深い作品なんです。制作中から「この作品は見てくれた人たちの背中を押すような、元気づけれるような作品にしたい」と話していました。例えば、作品の全編にわたって THE BLUE HEARTSの楽曲を使わせてもらっています。今後これらの楽曲を聴いたときに、この作品を思い出したり「あの4人は頑張ってたなって」望未たちのことを思い出してほしい。そして力が湧いてきたり、ちょっと凹んでいても「まだ頑張るか」って思ってもらえると嬉しいですね。

この作品のキーワードの中には、「応援」というのもありますよね。

そうですね。「モブ」が主人公というコンセプトを考えた時に、彼女たちが常に「モサ」たちを応援するというのがキーポイントでした。彼女たちは物語の中心に入れないのだけれども、彼女たちが応援することによって物語が完結する。それがシナリオの時に一番大事にしていたことですね。それに、いまでは私自身が、この作品についてふと思い出して、元気をもらえることがあります。ファンのみなさんのもとへも、彼女たちの応援がいつまでも届いているといいなと思います。

出合小都美(であい・ことみ)

アニメ監督、演出家。2004年に株式会社マングローブに制作進行で入社し、2006年に『Ergo Proxy』で絵コンテ・演出助手デビュー。初監督作は『銀の匙 Silver Spoon』(第2期)。キャラクターの機微をすくい上げる細やかな演出と繊細な世界観に定評がある。『ローリング☆ガールズ』以降、『夏目友人帳』ほか多数のアニメ作品の監督、演出を務める。現在、オープニングアニメーションのディレクターを務めた『GREAT PRETENDER』(制作は『ローリング☆ガールズ』と同じく「WIT STUDIO」)がフジテレビ「+Ultra」、BSフジほか各局にて放送中。Netfrixでも視聴可。