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Interview Vol.04

諏訪豊(プロデューサー、音楽プロデューサー)

諏訪豊

大正時代に創設され、未婚の女性だけで作り上げる美しく華やかな舞台で人々の心を魅了する「紅華歌劇団」。『かげきしょうじょ!!』は、歌劇団の未来のスターを目指す歌劇少女たちが繰り広げる青春・スポ根アニメです。アニメーションもさることながら作り込まれた楽曲も話題の本作は、漫画家・斉木久美子さんによる「MELODY(白泉社)」での連載が原作。少女漫画らしいタッチを盛り込まれたキラキラした世界観とは裏腹に骨太なストーリーが展開され、その魅力はそのままアニメでも表現されています。原作を読んで一目惚れし、自ら企画してアニメ化に踏み切ったプロデューサー、音楽プロデューサーの諏訪豊さんに作品の舞台裏についてお聞きしました。

アニメでこのシーンが観たい!って思ったんです。

ワンシーン

勤めておられるキングレコードには、もう長いのでしょうか?

諏訪豊

そう大したことはなくて、新卒で入社して今年で6年目です。そもそもはアイドルやバンドが好きで「アーティストの曲や作品の主題歌をプロデュースしてみたい!」と思ってキングレコードに入りました。ただ、入社当初は実写映画のライセンスを取り扱う部署に配属され、正直なところ戸惑いながら仕事をしていました(笑)。2年目からアニメ作品の国内営業部署に移り、アニメに関わりはじめたのはそこからです。漫画が好きでアニメも小さい頃は見ていましたが、仕事として向き合う決心があったかというとそうではありませんでした。働きながら徐々にアニメに携わることのおもしろさや、やりがいを見つけていきましたね。

諏訪豊

諏訪さんが普段勤めておられる「キングレコード」の会議室をお借りしてお話を聞いた。本作においてキングレコードは音楽制作を担った。

ワンシーン

『かげきしょうじょ!!』は諏訪さんが発起人となって企画づくりから携わったとお聞きしました。

諏訪豊

大きい成り立ちを話すと、当時僕は制作部のなかでアニメのプロデューサーの役を担いはじめる初期段階にいました。「自分だったらどういう作品をやってみたいか?」と考えはじめた頃に出合ったのが、白泉社さんから出ていた『かげきしょうじょ!!』コミックスの第1巻。キラキラした表紙に興味を持ち、読みはじめたのがきっかけです。それが3年ほど前ですね。

ワンシーン

ということは3年がかりのプロジェクトになりますね。当時コミックスを読んで感じた『かげきしょうじょ!!』の魅力とはどんなところだったのでしょう。

諏訪豊

たくさんありますが、まず挙げたいのは非常に繊細に描かれたキャラクターたちの心理描写ですね。とても素晴らしいと思いました。表紙の印象から、女の子の煌びやかな世界が描かれているのかなと想像しながら手にとったのですが、いざ読み進めてみると物語は結構ハード。キラキラしているけれども、登場人物たちは各々にトラウマやコンプレックスに向き合い・乗り越えて、そうして一つの夢を目指していきます。その王道的な物語の「熱さ」が作品としてすごく強いと思いました。もうひとつは、物語の大きな柱になっている歌劇団の部分です。アニメ作品のなかに音楽として歌劇団的な要素を取り入れたものは過去にもあると思いますが、真正面から踏み込んで表現したものは案外ありません。いちレコード会社の人間として、挑戦しがいがあると思いました。

ワンシーン

挑戦という意気込みもあったのですね。音楽を手がけられた斉藤恒芳さんはじめ、実際に宝塚歌劇団との関わりのある方もキャスティングされています。

諏訪豊

斉藤さんとは別の作品でご一緒したことがあり、舞台音楽からアニメ音楽までを手がけられる音楽家のなかでもトップクラスの方なので「斉藤さんにやってもらえたらとても素敵なものになるだろうな」と真っ先に思っていました。斉藤さんや声優(里美 星 役)の七海ひろきさん、それから宝塚歌劇団のOGの方々もプロジェクトに入ってくださっていたので、作品に一層リアリティが出たと思います。作品をつくりながらも直々に学ばせていただいて、そういったアドバイスからディテールが磨かれていきました。

ワンシーン

心強いアドバイザーがたくさんいらっしゃったんですね。

諏訪豊

第九幕「ふたりのジュリエット」のなかの運動会ための練習シーンで発せられる掛け声もそうです。専科チームの応援振り付けの決めポーズに「やー!」と掛け声を発声する予定だったのですが、宝塚歌劇団では「やー!」と伸ばさず「やっ!」と細かく切って発声するそうなんです。そのことをアフレコ中に「実際は短く切るんですよ」と教えていただいて急遽変更することに。そういった細部もきちんと表現できるよう対話しながらつくっていきましたね。

ワンシーン

「やー!」から「やっ!」への変更……本当に細やかなところまで再現されているんですね。

諏訪豊

舞台やミュージカルの常連には根強いファンの方が多くいらっしゃいますので、その方々から向けられる視線はかなり意識していました。覚悟を持って、真摯に向き合わなくてはいけないなと。最大級のリスペクトを持ちながら「アニメとして表現するならこんな風です!」というメッセージを込めて、そのうえで歌劇ファンの方々に喜んでもらえたらと思っていました。放送後、実際にお褒めの声も聞けたのは、いちばん嬉しいことかもしれません。

諏訪豊

作品に携わったスタッフのなかには、制作を通じて歌劇に興味を持った人も少なくないそう。「クリエイターのみなさんが深い関心を寄せて、楽しんで制作に臨んでくださったのはプロデューサーとして心から喜ばしいことでした。米田監督はその筆頭です。作品にすごく良い影響を生んだと思います」

ワンシーン

ファンの方にお墨付きをもらったわけですね。翻って、アニメの『かげきしょうじょ!!』を通じて歌劇に興味を持った方も多くいらっしゃると思います。

諏訪豊

僕の周りですと、監督を務めてくださった米田和弘さんがまさにそうです。オファー時には舞台やミュージカルに詳しいわけではなく、引き受けていただいてから勉強してくださいました。実際に劇場まで足を運んだりするなかで、いつの間にか沼にハマって、本当に好きになってくださった。いまやスタッフのなかでいちばん舞台愛が深く、誰よりも詳しくなったのは米田監督かもしれません。原作の斉木先生と米田監督との打ち合わせに同席した際、いつの間にか歌劇にまつわるトークで盛り上がっておられました。「あれいいよね〜!」と心置けないファン同士のような会話に立ち会えたのは、僕にとっての快挙でしたね(笑)。

ワンシーン

すごくコアな話になったのではと想像します(笑)。3年にわたる制作のなかには、ほかにも印象深い出来事があったことと思いますが、一方作中での思い入れのあるシーンについても聞いてみたいです。

諏訪豊

いくつもありますがひとつに選ぶとするなら、第十一幕、奈良田愛のオーディションシーンですね。原作を読み、特にこのシーンをアニメで観たいがために企画を立ち上げたとさえ言えます。このシーンは、ぜひ声優さんの声で聞いてみたいと思ったんです。

諏訪さんが選ぶ「ワンシーン」!

かげきしょうじょ!!

第十一幕「4/40」からのワンシーン。文化祭で行われる寸劇「ロミオとジュリエット」に向けた初めてのオーディションがはじまるも、自分のセリフの直前になっても愛はジュリエットが抱く恋心を理解できずにいた。さまざまな回想が頭をめぐるなか、たどり着いたのはさらさへの想いだった。「愛情とも友情ともとれない、さらさへの特別な感情を自らの演技に落とし込み、語られるジュリエットの台詞が……。いま自分で話しながら、思い出して泣きそうになっています(笑)」

ワンシーン

迫りくる出番のなか、愛の回想に心ときめきました。きっと視聴された多くの方がこのシーンを覚えているのではないかと思います。諏訪さんは音楽プロデューサーの立場でも作品に関わっていますが、印象深い楽曲はありますか?

諏訪豊

それで言うと、エンディングテーマでしょうか。『かげきしょうじょ!!』の制作が始まってまもなく、斉藤さんから「出来たのでぜひ聞いてください」とデモ曲が3曲送られてきたんです。劇伴なのかBGMなのかキャラクターソングなのか、何のデモかは分からないままに聴いたのですが、どれもとても素晴らしかった。お電話で「ちなみに何をイメージされてつくりました?」と尋ねると、「『かげきしょうじょ!!』っぽい、いいのができたので送りました」と(笑)。正直、最初に聴いたときには「これはアニメソング……?」となってしまうほど未知数な楽曲でした。試行錯誤を経て、そこで選んだ1曲がエンディングテーマに仕上がりました。

ワンシーン

デモ音源から、どうやってあのようなストーリー性あるエンディングテーマになっていったのか、経緯はすごく気になります。

諏訪豊

いわゆる歌劇団的な表現を考えていたときに、斉藤さんがふと「男役と娘役のデュエットがいいよね」とおっしゃられたことから、『かげきしょうじょ!!』の男役・娘役志望のキャラクターたちのデュエット曲にしようと決めたんです。完成に近づいてゆく楽曲を聴かせてもらうと、あまりに素晴らしいので全キャラクターの歌声を聞きたくなってしまいまして。そこで、「歌詞違いで楽曲をつくられますか?」と打診しました。さらさと愛、紗和と彩子、沢田姉妹、薫……と、それぞれのカップリングとテーマ設定だけお伝えして、あとはすべて斉藤さんのクリエイティブの力によってつくっていただきました。修正もほとんどありませんでしたね。音楽プロデューサーとして僕がさせていただいたのは、そのようなお願いでした。

ワンシーン

エンディングのキャストが代わる代わるして歌うので、毎週ワクワクして最後まで観ていました。

諏訪豊

ただ、果たして狙いが実現できるだろうかとすごく悩みました。このエンディングテーマは、本編のキャラクターのままで歌ってもらうのではなく、予科生たちがいずれ「紅華音楽学校」を卒業して大舞台に立ち、それぞれに男役・娘役として歌われるものをテーマにしていました。つまり、キャラクターが更にキャラクターを演じることになるわけです。複雑で難しい注文をしてしまった手前、僕が苦労したということはありませんが、キャストのみなさんに負担のかかるお願いして無理をさせてしまっていないか悩み込んでいました。

ワンシーン

なるほど。美しい映像も相まって、いまお聞きした諏訪さんの狙いは短いエンディングのなかで物の見事に表現されていると思いました。

諏訪豊

そう言っていただけると嬉しいです! 結果的には納得の素晴らしい出来上がりでしたが、レコーディング当日まではずっと不安でした。キャストのみなさんの確かな歌唱力はもちろん分かっていましたが、無理な演技をさせてファンの方にとって聞きたくないものや、キャストの素晴らしい歌声を損なうようなことがあるなら、取り下げようとすら思っていました。そんな葛藤のなか、いちばん最初にレコーディングしたのが杉本紗和役を演じてくださった上坂すみれさんです。上坂さんが委員長として、そして男役として歌うのを聴いたときに、「素敵だ! 絶対最後までやろう!」と、前に進む覚悟が決まりました。

ワンシーン

放送毎にSNSでもたくさんの反響があったと思いますが、わたしたちもエンディングが大好きです。タイミングが合いさえすれば、今回制作させていただいたグッズにもエンディングをモチーフにしたものを展開してみたかったです。

諏訪豊

グッズ、拝見しています! こちらこそ、かわいいアイテムをつくっていただいて、ありがとうございます。アクリルスタンドは本当に各キャラクターをかわいくデフォルメしていただいて驚きました。聖とリサまでつくっていただけたのもとても嬉しいです。

諏訪豊

アイテムを制作するなかで、諏訪さんご自身にデザインチェックしていただくことも。「サンプルがあがってくる度に、このサイズなら着られそう! と勝手なこと言って楽しんでいました。僕はグッズ担当じゃないのに(笑)」

諏訪豊

アニメファンが好む特有な、いわゆるベタなデザインのグッズも大好きですが「uno / cine」のように作品の世界観に寄り添って、グッズならではの表現でデザインしてもらえるのはとても貴重なことと思っています。Tシャツもそうですが、デザインが素敵なうえにキャラクターたちのドラマまでを落とし込んでくださっていますよね。そんなグッズって、なかなかないと思います。1枚のTシャツのデザインのなかに、さらさと暁也、さらさと愛の関係性で浮かび上がってくるような、アニメの断片が組み込まれています。これはとてもすごいことだと思いますよ。

ワンシーン

ありがとうございます!

諏訪豊

僕は私服でもアニメグッズを着るタイプなので、ぜひこのアイテムたちも着させてもらいます。ジャケットもパーカーもあるので、トータルでコーディネートできそうです(笑)。

諏訪豊

諏訪豊(すわ・ゆたか)

プロデューサー、音楽プロデューサー。大学卒業後、2016年より株式会社キングレコードへ入社。実写映画のライセンス営業職を経て、現在はアニメ制作部のプロデューサー職に。『かげきしょうじょ!!』は初めて企画立ち上げから担当し、他にも数多くのアニメ作品を手掛ける。

Text and Edit: lull, Inc.
Photography: Masataka Kougo